Dr Sim:アジアでは特に、「糖尿病のX年後にNT-proBNPの測定を開始すべき」というような明確なガイドラインはありません。従来、糖尿病についてはHbA1cを確認していき、患者さんが冠動脈疾患や心不全を発症するまでは経過観察となります。治療は通常のスタチン、アスピリンおよび心不全薬の投与が開始されますが、この段階では患者さんはステージCの心不全となっているため、少し遅すぎる可能性があります。
このような糖尿病患者でステージAおよびステージBの心不全を拾い上げるには、思考のパラダイムシフトが必要で、これに関して、バイオマーカーのNT-proBNPに目を付けることは、興味深い方法の1つです。そこで、APAC地域でADOPT試験が開始されました。ADOPT試験では、明らかな心血管疾患のない糖尿病患者を対象にNT-proBNPを使用した観察が行われています。NT-proBNPが高値の患者さんは、将来のイベントリスクが高い重症患者グループとなります。この試験では、この患者グループに対するSGLT2阻害薬の使用、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)阻害薬およびβ遮断薬によるアップレギュレーションが将来のイベントリスク低減に役立つ可能性を証明することを目的としています。
Dr Januzzi:別の試験であるPONTIAC試験はこれと全く同じデザインですが、NT-proBNPが125 pg/mL超の糖尿病患者を対象に、治療強化と通常治療の比較を行っています。
CANVAS試験では、心不全の既往がある患者さんとない患者さんの間で、ベースライン時のNT-proBNP値が記録されました。試験の結果、両グループ間で大きな重複が認められました。CANVAS試験のかなりの割合の患者さんが、おそらくステージBの心不全を有していたものの認識していませんでした。これらの患者さんは、糖尿病に平均5年間罹患しており、心臓のリスク因子を有していました。CANVAS試験のアウトカムの判断については、125 pg/mLに応じたアウトカムが使用されており、これはADOPT試験およびPONTIAC試験で使用されたカットオフ値と同じでした。NT-proBNPが125 pg/mL未満の患者さんと比較して、125 pg/mL超の患者さんでは、心不全による入院のリスクが5倍を超えることが観察されました。 これは糖尿病患者をスクリーニングすべきとする米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)の推奨を裏付ける非常に重要な知見です。そのため、心血管イベントリスクのある糖尿病患者には、測定を行うことが推奨されます。