Dr Rudolf de Boer
Cardiologist and Head Experimental Cardiology, Groningen
 

DAPA-HF試験とEMPEROR-Reduced試験のハイライト

KEY TAKEAWAYS

  • SGLT2阻害薬は、糖尿病の状態とは無関係に、駆出率低下を伴う心不全において有益かつ安全であると考えられます。
  • SGLT2阻害薬は、推定糸球体濾過率(eGFR)の低下の進行を遅らせることから、腎臓の保護作用を有しています。そのため、心不全の治療薬として重要です。
  • DAPA-HF試験およびEMPEROR-reduced試験の結果は、規制当局およびガイドラインにより、医師に向けた推奨事項として取り入れられるでしょう。

DAPA-HFおよびEMPEROR-Reducedの結果について、どのようにお考えですか。

EMPEROR-reduced試験は駆出率(EF)低下を伴う心不全の患者を対象とし、3700名以上の患者を組み入れた大規模な治験で、患者はエンパグリフロジン10 mgまたは対応するプラセボに無作為に割り付けられました。

昨年、パリで開催されたESC 2019で、EMPEROR-reduced試験とよく似たDAPA-HF試験の結果が発表されていました。DAPA-HF試験ではダパグリフロジン10 mgが使用されました。その試験では、主要評価項目である心不全による入院および心血管死に加えて、多くの副次評価項目で低下が認められるという大変際立った結果が示されたことから、いわゆるメガヒットした治験として、大きな成功をおさめたと言えるでしょう。

そのため、だれもがEMPEROR-reduced試験の結果を待ち望んでいました。2つの試験で結果が確認されれば、非常に心強くもあり、重要性も増すためです。そしてEMPEROR-reduced試験はまさにそのような、期待に応えるものとなりました。この試験でも主要評価項目は心不全による入院または心血管死でしたが、どちらが先に生じた場合でも、エンパグリフロジンの効果により25%の低下が認められ、DAPA-HFと匹敵する効果量が示されました。

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EMPEROR-reduced試験では、事前に3つの主要評価項目を設定しました。1つ目は心血管死および心不全による入院、2つ目は心不全による再入院、3つ目は腎臓に関する評価項目でした。この3つの評価項目はすべて達成されました。

多くの人が本心から知りたがっていたのは、DAPA-HFとの比較でした。私としては、違いよりも類似点の方が多かったと感じています。最も重要なのは、主要評価項目に関する効果量がほぼ一致していたことで、これは素晴らしい結果でした。いくつかの違いがありましたが、その多くは治験デザインや患者の選択に関係したものだったと考えます。つまり、DAPA-HFでは比較的安定した疾患が過度に進行していない患者を登録する傾向があったのに対し、EMPEROR-reducedではより重度の心不全患者が多くなっていました。これは、EMPEROR-reduced試験の治験担当医師に、EF30%以下というEFが極めて低い患者を選択するための複雑なスケジュールが課されたことによるものでした。EFが30%を超えている場合、35%未満であった場合でも、異なるヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の選択基準が適用されましたが、これははるかに高い数値でした。こうした二相性の試験デザインにより、治験担当医師はDAPA-HFの患者よりも重度の心不全を有する患者を組み入れることを強いられました。このことは、EMPEROR試験では平均EFが27%であったのに対してDAPA-HF試験では31%であったこと、およびEMPEROR試験では平均NT-proBNPが1900であったのに対してDAPA-HF試験では1500であったことから、最終的に証明されています。このように、試験間である程度の違いがありました。

アウトカムに関しては、EMPEROR-reducedの方が100人年あたりの主要評価項目が多かったです。これは疾患の重症度と一致していますが、心不全(HF)による入院の発生率の増加のみでほぼ説明することができます。心血管系での死亡率は2つの試験で同等でした。EMPERORはDAPA-HFよりも小規模だったため(3700例対4700例)、平均追跡調査の期間も短くなりました。DAPA-HFではおそらく500例で18ヵ月であったのに対してEMPERORでは16ヵ月でした。心血管死に関しては、エンパグリフロジンとプラセボの間に有意差はありませんでした。私は、エンパグリフロジンは評価項目を全体的に減少させるものの、心血管系での死亡率は低下させないという仮説もあり得ますが、作用機序や病態生理学の観点からは、考えにくいシナリオであると思います。繰り返しになりますが、この2つの試験はお互いに支えあう関係にあります。現在、1つの試験だけではなく、同じ結果を示した大規模で有力な2つの試験があり、その結果から、駆出率低下を伴う心不全においてSGLT2阻害は大変有益であることが示唆されています。

さらに2つの所見が非常に重要であると考えます。まず、DAPA-HFの場合と同様に、EMPEROR-reduced試験には糖尿病の患者と糖尿病ではない患者が組入れられましたが、治験薬はいずれの患者にも等しく有効であったことです。そのため、当初は糖尿病に対する経口血糖降下薬とされていたこれらの薬剤が、実際には糖尿病の状態とは無関係に、心不全にも適した薬であるということがより明確になっています。重要なこととして、長期的には、糖尿病のない心不全患者でもこれらの薬剤が使われるようになると予想されます。これは非常に重要なポイントの1つです。

もう1つの非常に重要な点は、実用性と安全性です。この2つは扱いが容易な薬剤です。この2つの薬剤には10 mgという固定用量があります。同一クラスの他の薬剤では異なる用量設定があるのに対し、これらは固定用量ですぐに開始することができます。用量を調節する必要がなく、副作用も極めて少なくなっています。脆弱な心不全患者で非常によく見られる副作用である腎機能障害と高血圧は、実薬に割り付けられた患者で、プラセボ群と比較して例数でも有意性でも有病率は高くなく、極めて実用的で安全かつ心強い結果を示しました。繰り返しになりますが、これはESC 2020のハイライトの1つであり、参加者はこれを歓迎し、多くの議論が交わされました。

これらの結果は、SGLT2阻害薬を(ACEi/ARB/ARNi、BBおよびMRAとともに)駆出率低下を伴う心不全(HFrEF)患者の新しい標準治療として確立するのに十分ですか?

 SGLT2阻害薬をこの分野のどこに位置付けたいのかを決めることが課題となるでしょう。今ではこうした2つの試験の知見がありますので、何らかの推奨が提案されるのは確実だと考えます。

私が興味深いと考えているのは、心不全を発症する患者のほとんどが、肥満、糖尿病、高血圧など、多くの誘発因子を有していることです。つまり、心血管リスクが高く、現在の糖尿病ガイドラインに従えば、その多くは心不全を発症する前の段階ですでにSGLT2阻害薬に適応があるのです。そのため、どこから、いつ、どのようにこれらの薬剤を開始するかというジレンマは必ずしも、心不全の担当医師を悩ませるものとはならず、むしろ、それ以外の医師がこうしたジレンマに直面するでしょう。ただし、SGLT2阻害薬の投与を受けずに新たに心不全を発症した患者については、当然ながら、利用可能なデータを参照する必要があります。DAPA-HFとEMPEROR-reducedの話に戻りますが、いずれの試験でも患者はすでに相当な基礎治療を受けているものの、依然として症候性でEFが低下しており、その状態でこれらの薬剤に無作為に割り付けられています。心不全のガイドラインでは、当該治験のデザインに沿った内容が推奨される可能性が極めて高いと考えています。しかし繰り返しますが、これらの薬剤は現在、糖尿病の第一選択薬となっているため、投与を受ける患者数がずっと多くなるのではないでしょうか。これらの薬剤は糖尿病および心血管リスク管理ガイドラインで十分な推奨を受けることができるものと考えています。

HFおよび慢性腎臓病(CKD)の患者におけるSGLT2阻害薬の役割とは?

これらの薬剤については、2型糖尿病を対象としたEMPA-REG試験、CANVASプログラムおよびDECLARE-TIMI試験で腎臓の保護作用が認められたことから、腎疾患を扱う腎臓専門医および内科医からすでに多くの注目を集めています。また、ESC 2020では、DAPA-CKDという影響力の大きい別の試験の発表もありました。この試験は腎症患者にダパグリフロジンを投与し、腎臓および心血管評価項目の低下を目指したものでした。この試験の結果も素晴らしく良好でした。この試験については今週、New England Journal of Medicine誌で発表されたばかりで、 非常に重要な試験だと考えています。私は腎臓専門医ではありませんが、腎症患者のeGFR低下を抑制することがどれほど困難であるか、蛋白尿を抑えるのがどれほど困難であるかはだれもが知っていることであり、DAPA-CKD試験の対象集団はまさにそこに当てはまります。そしてこの集団においても、SGLT2阻害薬が非常に有効であることが確認されました。

カナグリフロジンのCREDENCE試験と併せて、SGLT2阻害薬には腎保護作用があることの十分な証拠が得られたのではないかと感じています。これは、心不全では腎臓の副作用によって多くの治療法が事実上制限されてしまうことを考えると、重要と言えます。SGLT2阻害薬があれば、心不全の治療にあたる者として、腎臓の副作用を恐れなくてもよくなるのです。逆に、腎臓の保護を求めるべきなのかもしれません。

DAPA-HFおよびEMPEROR-reducedのいずれにおいても、eGFRの低下が実際に遅くなっており、腎保護作用が改めて確認されました。DAPA-HFではeGFRに関する除外基準の下限は30でしたが、EMPEROR-reducedではわずか20でした。以上から、心不全では幅広いeGFR域にわたってこれらの薬剤が有益かつ安全であり、おそらく腎臓の保護作用も示すという良好なエビデンスがあります。これは非常に重要な点であり、医師が心から求める、有効性と安全性の両立が実現されています。

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